本を読んで考えたこと

無性に何か書き残したくなる本に時々出会う。その記録。

極限状態で思いを文字にする(トニー・ジャット『記憶の山荘■私の戦後史』)

 意識があるのに体を動かせない拘束状態がどれほど辛いか、何度か想像してきた。小学校の頃に星野富弘さんの話を聞いたのが人生初の衝撃だったと思う。

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気の存在を知ったのはもう少し後で、進行すると最後は自分の意思で動かせるのが瞼や尻の穴のみという話も聞いた。ドキュメンタリーや映画にも何度か触れつつ、自分なりに物語を膨らませていたわけだけど・・・

 

 書籍という形で作品化されているものに出会ったのは初めてだった。(『五体不満足』は障害の種類が全く別)

記憶の山荘■私の戦後史

記憶の山荘■私の戦後史

 

 口述筆記なので言葉はまだ喋れる段階。でも人の手を借りないと移動することはできない。ベッドに横たわるだけの時間、ひたすら自分の記憶に潜り込み、向き合い続けた著者(話者?)。ジョナサン・スペンス『記憶の宮殿』にならって、記憶や想起をする過程を、自身がスイスで過ごした思い出深い「山荘」に託している。間取りとか、柱の一本一本がどういう佇まいで立っていたかとか、雰囲気とか、そういうものに添わせる形で。

 「書きながら考える」ことを当たり前にしている自分にとって、「横たわってひたすら考える」→「口述」という流れは神業に思える。文字になる前に、ある程度頭の中で完成しているわけだから。しかもその過程が、「山荘」という比喩によって第三者にもみずみずしく伝わるのだからすごい。

 

 自分について語ることはたやすい。ただしそれは、相手と直接しゃべったり、書きながら考えたりできればの話。この本は、エッセイの究極形態だと思った。

 ここでは余談ですが、著者は歴史学者で、『ヨーロッパ戦後史』はピューリッツァー賞最終候補にもなった名著。全然知らなかった。みすず書房様に感謝&敬服。『ヨーロッパ戦後史』、絶対読む。